税務論点整理|ケーススタディ

同族会社への貸付金と毎期の債務免除
「返済ゼロ・免除益計上」の何が問題か

父が、息子が経営する会社へ多額の資金を貸し付け、会社は毎期一定額の債務免除益を計上して実際の返済はゼロ。
相続対策のつもりで続けられているこの処理には、法人税・贈与税・所得税・相続税の4方向から問題が潜んでいます。
設例で整理します。

設例:父が、息子が代表を務める同族会社A社へ3億円を貸し付けた。
A社はその資金で賃貸マンションを購入している。
A社は利子の支払いを含めて毎期1,000万円の債務免除益を計上しており、父への実際の返済額はゼロである。
この処理の課税関係に問題点はあるか。

結論 ― 問題点は5つ

1:会社側は免除益が毎期課税され、繰越欠損金がなければ現金収入なしに法人税負担だけが生じる。
2:会社が債務超過でない限り、免除の都度、株主(息子等)に父からのみなし贈与課税が生じている可能性が高い(相続税法9条、相基通9-2(3))。無申告なら過年度分(原則6年)のリスクが蓄積している。
3:利付契約のまま利息を免除していると、父側に権利確定済み利息の雑所得課税リスクが残る。
4:債権放棄の書面がないと免除の立証が困難で、相続税申告の貸付金残高の認定で不利に働く。
5:毎期1,000万円ペースでは3億円の解消に約30年。相続税対策としてほぼ機能しておらず、毎年の税負担を積み増しているだけの構造になっている。

前提 ― 債務免除は3人の登場人物すべてに課税問題を起こす

個人から同族会社への貸付金の免除は、「会社」「株主」「債権者本人」の三面で課税関係が動きます。
どれか一つでも見落とすと、静かに課税リスクが蓄積します。

立場毎期の免除で起きること
会社(債務者) 債務免除益1,000万円が益金算入(法人税法22条2項)。繰越欠損金(法人税法57条)の範囲内なら課税なしだが、欠損金がなければ現金収入ゼロのまま毎期300万円前後の法人税等を負担する。期限切れ欠損金(法人税法59条)は再生・清算等の場面に限られ、営業継続中は使えない。
株主(息子等) 会社が対価なく債務免除を受けて株式の価額が増加すると、増加分を株主が債務免除者から贈与により取得したものとみなす(相続税法9条、相基通9-2(3)。取得時期は免除があった時)。純資産価額方式では負債の減少がほぼそのまま純資産の増加になる。
債権者(父) 約定の利払期日が到来し権利確定した利息を事後に放棄しても、回収不能(所得税法64条1項)に当たらなければ雑所得の課税リスクが残る。無利息化するなら権利確定前に契約変更の書面を作る。

問題点1・2 ― 「免除益+みなし贈与」の二重の税負担が毎年発生する

免除で得をするのは誰か、を考えると構造が見えます。
会社の借金が1,000万円消えると、その分だけ会社の純資産が増え、株式の価値が上がります。
価値の増加分は、株主が父からタダで受け取った利益であり、贈与税の基礎控除110万円を超えれば毎年みなし贈与課税の対象になり得ます。

同族会社の株式の価額が、対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があったことにより増加したときは、
株主が当該利益を受けた部分を、債務免除等をした者から贈与によって取得したものとして取り扱う。

相続税法基本通達9-2(3)の趣旨。財産取得の時期は「債務の免除があった時」とされる。債権放棄に伴う株価上昇分をみなし贈与とした裁決例も公表されている。

例外は会社が債務超過(資力喪失)の場合で、債務超過部分に対応する免除はみなし贈与として取り扱われません(相基通9-3)。
ただし、免除で債務超過を脱する部分には課税が生じ得ます。
この例外に頼るなら、各免除時点の相続税評価ベースの純資産計算資料を毎期作成・保存し、債務超過だったことを立証できるようにしておく必要があります。

無申告のまま続けた場合

贈与税の更正・決定の期間制限は原則6年(相続税法37条1項)、偽りその他不正の行為があれば7年(同条4項)。
単純な無申告でも、直近6年分は期限後申告・決定の対象となり、無申告加算税・延滞税が付きます。
調査通知前の自主的な期限後申告なら無申告加算税は軽減されます(国税通則法66条)。

問題点4 ― 帳簿の「免除益」だけでは、免除の証拠にならない

債権放棄は債権者の一方的な意思表示で成立し、書面は効力要件ではありません(民法519条)。
しかし、債権者側に債権放棄通知書等の証拠がなく、会社側の帳簿処理(免除益計上)しか存在しない場合、
免除の存在・時期・金額の立証は極めて弱くなります。

課税庁の認定帰結
免除の意思表示が認められない場合 相続財産の貸付金は免除前の額面3億円+既経過利息で認定。会社が計上済みの免除益との不整合が生じ、法人税側の救済(更正の請求)は5年の期間制限で全部は戻らない。
免除が認められる場合 今度は過年度の株主へのみなし贈与(問題点2)が顕在化する。

どちらに転んでも問題が生じる構造です。
債権者の生前に、各年の免除について確定日付のある債権放棄通知書(内容証明が望ましい)、会社側の議事録、双方の帳簿の整合を整えることが不可欠です。
なお、あらかじめ「毎年1,000万円ずつ30年で免除する」といった包括合意の書面を作ると、
定期金に関する権利の贈与と同様に当初年に一括課税されるリスクが生じ得ます(タックスアンサーNo.4402参照)。
各年の免除は、毎期の決算状況を踏まえてその都度判断した形跡を残すのが正解です。

問題点5・6 ― 相続税対策として、ほぼ機能していない

このスキームの最大の誤解は「返済ゼロでも貸付金が減っていくから相続対策になっている」という感覚です。
実際には次のことが起きます。

マンション購入との関係:貸付金で会社に収益不動産を持たせても、貸し手の相続財産は「貸付金(額面)」のままで、評価差額の恩恵は会社の株主に帰属します。
しかも株式評価上、取得後3年以内の土地建物は通常の取引価額で評価され(評基通185括弧書き)、
令和8年度税制改正大綱では取得後5年以内の貸付用不動産を取得価額ベースの80%で評価する見直しが盛り込まれています(令和9年1月1日以後適用予定・株式評価への波及は通達改正待ち)。
「法人で貸付用不動産を買って評価を下げる」型の効果は縮小する方向にあります。

是正・対策の方向性

  1. 免除は「繰越欠損金の範囲内・債務超過の範囲内」に限定する免除益課税ゼロとみなし贈与ゼロを同時に満たせる唯一の帯域。毎期の決算・時価純資産を確認してその都度判断し、書面を残す。
  2. 利付契約なら権利確定前に無利息化する契約変更の書面を作成。権利確定後の放棄は債権者側の雑所得リスクが残る。
  3. 過去の免除を棚卸しする各免除時点の株価計算を行い、みなし贈与の有無を検証。株価増加があれば除斥期間内の年分の期限後申告を検討(調査通知前なら加算税が軽減される)。
  4. 残債権の出口を設計する相続時精算課税による債権の生前贈与(額面評価・持ち戻しの繰延べ)、DES(債権の時価と券面額の差額に債務消滅益課税のリスク。説明を怠った税理士法人に約3億2,900万円の賠償を命じた裁判例(東京地裁平成28年5月30日判決)があり、実行前の債権の時価評価が必須)、遺言による会社への遺贈(混同で消滅するが受贈益課税と株主へのみなし課税は残る)、賃料からの実返済+現金の暦年贈与(最も安全な正攻法)を比較検討する。

確認すべき事実関係

この論点の結論は、次の事実で大きく変わります。
検討の最初の一歩は事実確認です。

(1) 会社の株主構成(債務免除者の相続人が株主か) (2) 金銭消費貸借契約書の利率・利払条項 (3) 各年の免除の書面(債権放棄通知書・議事録)の有無 (4) 会社の繰越欠損金の残高と相続税評価ベースの純資産の状況 (5) 貸し手の相続開始の有無と時期(生前贈与加算の対象期間)